外国人社員が「産休・育休」に入ることになったら?ビザへの影響はある?

はじめに

外国人社員を雇用している企業の人事担当者様から、最近このようなご相談をよくいただきます。

「優秀な外国人社員が育児休業に入る予定ですが、ビザ(在留資格)に何か影響はありますか?」 「産休中は会社で働いていませんが、在留資格が取り消されたりしないでしょうか?」

日本人社員であれば、産前産後休業や育児休業の取得は当然の権利であり、制度も広く定着しています。しかし、外国人社員の場合、「長期間仕事を休んでいると、入管から『働いていない』とみなされてビザが危なくなるのでは?」と、本人も会社も不安になってしまうケースが少なくありません。

結論から申し上げますと、会社との雇用関係が維持され、法令に基づいて適法に産休・育休を取得しているなど一定の要件を満たしている限り、それだけを理由に在留資格が取り消されたり、更新が不許可になったりすることはありません。

今回は、外国人社員が産休・育休を取得する際の在留資格上の注意点や、実務上で企業が備えておくべきポイントを、入国管理局の基準に沿って分かりやすく解説します。


在留資格の「3ヶ月ルール」と産休・育休の関係

就労系の在留資格(「技術・人文知識・国際業務」など)を持っている外国人は、原則としてその在留資格に応じた活動を継続していなければなりません。

入管法(第22条の4第1項第6号)では、「正当な理由」がないまま、継続して3ヶ月以上その在留資格の活動を行っていない場合、在留資格の取消対象になると定められています。これが実務でよく言われる「3ヶ月ルール」です。無断欠勤や、事実上の退職、ペーパーカンパニーへの在籍などで就労実態がなくなれば、当然ビザの維持は難しくなります。

では、産休や育休の場合はどうなるのでしょうか。

産前産後休業は労働基準法、育児休業は育児・介護休業法という日本の法律に基づき、会社との雇用関係を維持したまま認められる正当な休業です。そのため、入管の実務運用上も、適法な産休・育休の期間中は「正当な理由がある不就労」として取り扱われます。会社との籍があり、復職を前提とした正当な休業である限り、3ヶ月以上現場を離れていても原則として在留資格が取り消されることはありません。


「産休・育休中」の在留期間更新で気をつけたい実務のポイント

休業の取得自体が即座に不利益に扱われるわけではありませんが、「休業期間中にビザの更新時期(在留期間更新許可申請)が重なった場合」は、実務上、いくつか注意が必要です。

入管は更新審査の際、「現在も本当にその会社に籍があるのか」「休業が終わったら復職する意思があるのか」を書類で厳格にチェックします。通常、以下のような資料をセットで提出し、現在の休業状況と今後の復職予定を丁寧に説明することになります。

  • 在職証明書(会社が発行するもの)
  • 育児休業取扱通知書の写し、または休業期間や復職予定日が明記された社内書面
  • 雇用契約書や労働条件通知書(復職後の条件に変更がないか確認するため)


【重要】「住民税の課税・納税証明書」に関する実務上の落とし穴

更新申請で最も審査官が見るのが、市区町村が発行する「住民税の課税・納税証明書」です。 育休中は原則として会社からの給与が支払われず、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されますが、この給付金は非課税です。そのため、更新のタイミングによっては、直近の課税証明書の「総所得金額」が著しく低く記載されたり、住民税が免除されていたりします。

入管から「復職後に十分な生計を維持できるのか?」と疑問を持たれないよう、「復職後の見込み給与明細(または見込み年収の証明書)」を会社側で用意し、「育休中で一時的に所得が下がっているだけで、復職後は生計維持に問題がない」という旨の弁明・説明を申請時に添えるのが実務上の大きなポイントになります。


※「高度専門職」ビザの社員がいる場合は要注意

もし、休業する社員がポイント制による「高度専門職」の在留資格を持っている場合、一般の就労ビザとは異なる特有のリスク(落とし穴)があります。

高度専門職のうち、「高度専門・技術活動(1号ロ)」および「高度経営・管理活動(1号ハ)」においては、ポイント計算の前提として年収300万円以上であることが必須要件とされています(※大学教授や研究者等の「高度学術研究活動(1号イ)」にはこの最低年収基準の規定はありません)。

前述の通り、育休中に受給する育児休業給付金(非課税)は、入管法上の「報酬」にはカウントされません。そのため、育休によってその年の課税対象となる報酬額が基準を大きく下回ってしまい、更新時に高度専門職(1号ロ・ハ)のポイント(70点以上)や最低年収要件を維持できなくなるリスクが生じます。

この場合、更新のタイミングで通常の就労ビザ(「技術・人文知識・国際業務」など)へ切り替える(在留資格変更許可申請を行う)必要が出てくるケースがあります。高度専門職ビザの外国人が育休を取得する際は、早めに専門家へスケジュールの確認をしておくことを強くお勧めします。


男性社員の育休取得も、扱いはまったく同じ

近年、政府の推進もあり、男性社員の育児休業取得が急速に増えています。 在留資格の手続きにおいて、男性だからといって特別な扱いをされることはありません。女性社員と同様に、日本の法令に則った適法な育休であれば「正当な理由」と認められます。

「男性の育休取得」を理由にビザが不利になるようなルールはありませんので、会社としても安心して制度を勧めてあげてください。


外国人社員が休業に入る前に、会社が確認しておくべきチェックリスト

トラブルなくスムーズに手続きを進めるため、外国人社員が産休・育休に入る前に、企業の人事担当者様は次の5つのポイントを整理・保管しておきましょう。

  • 雇用契約は継続しているか(退職扱いになっていないか)
  • 明確な復職予定があり、復職後の労働条件や予定日が定まっているか
  • 更新時に「休業中の証明(育児休業取扱通知書等)」や「復職見込み証明」をすぐ発行できるか
  • 休業期間中(特に復職直前など)に、在留期限が到来しないか(スケジュールの確認)
  • 社内の育休取得に関する承認記録や手続き書類が適切に保管されているか


まとめ

「外国人だから育休を取るとビザが出にくくなる」というのは、完全に誤解です。日本の法令に基づいて取得する産休・育休は、外国人社員であっても等しく認められた正当な権利です。

入管手続きにおいて重要なのは、「会社との雇用関係がしっかりと継続していること」「国の制度に則った適法な休業であること」「休業終了後に職場復帰する確実な予定があること」の3点です。これらを証明する資料さえ事前にしっかり準備しておけば、基本的には必要以上に心配することはありません。

当事務所では、外国人社員の育休取得に伴う在留資格更新の手続きや、休業中の所得減少に対する入管への説明書類(理由書・弁明書)の作成、高度専門職ビザからの変更シミュレーションなど、企業向けの法務サポートをトータルで行っております。「今回の更新は少しイレギュラーで不安だな」と感じられた際は、どうぞお気軽にご相談ください。

※本記事は掲載日時点の法令・制度および出入国在留管理庁等の公表情報に基づいて作成しています。法改正や入管の運用変更等により内容が変更される場合がありますので、具体的な手続にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。