採用した外国人が想定より日本語を話せない…

そのとき会社はどう対応すべきか?

はじめに

外国人採用が一般的になった現在、多くの企業が人材不足解消のために外国人社員を採用しています。 しかし、採用後によく聞く相談のひとつが、 「面接では問題なく会話できたのに、入社してみたら日本語が思ったほど通じなかった」 「お客様対応を任せられるレベルではなかった」 「指示内容を十分に理解できず、業務に支障が出ている」 というものです。

では、このような場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。 今回は、外国人社員の日本語能力が想定より低かった場合の対応と、法的な注意点について解説します。


日本語能力試験(JLPT)の級数だけでは判断できない

採用時に、 「N1を持っています」 「N2に合格しています」 という話を聞くことがあります。

確かに日本語能力試験(JLPT)は一定の目安になります。しかし、JLPTは主に「読む・聞く」能力を測る試験です。実際の職場で必要となる、

  • 電話応対
  • お客様との会話
  • 社内コミュニケーション
  • クレーム対応
  • 専門用語の理解

などを直接評価する試験ではありません。 そのため、資格上は高いレベルを持っていても、実務における「話す・書く」現場では十分に対応できないケースがあります。逆に、資格を持っていなくても実務会話が非常に上手な方もいます。採用時には資格だけに頼らず、実際の会話力を多角的に確認することが重要です。


日本語が苦手だからといってすぐに解雇できるわけではない

企業側としては、「期待していたレベルに達していないので退職してもらいたい」と考えることもあるかもしれません。 しかし、日本の労働法では解雇が厳しく制限されています。単に「思ったより日本語が話せなかった」という理由だけで直ちに解雇することは原則として認められず、客観的に合理的な理由を欠くとして「解雇無効」と判断されるリスクが極めて高いと言えます。

採用時の募集内容や職務内容、本人への指導状況なども考慮されます。特に、

  • 日本語能力について、採用選考時に十分な確認を行わなかった
  • 入社後、業務に必要な教育や指導(ビジネス日本語の研修など)をほとんど実施していない
  • 改善の機会や猶予期間を一切与えていない

といった場合には、解雇の正当性はまず認められません。まずは段階的な指導・教育を行い、そのプロセスを記録(指導日報など)に残すなど、慎重な対応が必要です。


まずは業務内容とのミスマッチがないか確認する

日本語能力の問題と思っていたものが、実は業務内容とのミスマッチであるケースも少なくありません。 例えば、

  • 接客業務(口頭)は難しいが、事務作業(テキスト確認など)は問題なくできる
  • 電話対応は苦手だが、メールやチャットでの顧客対応なら時間をかけて正確にできる
  • 専門用語が多い部署では苦戦するが、マニュアルが整備された別部署なら活躍できる

といったケースです。 本人の現在の日本語力でも対応できる業務を適切に把握し、配置転換や担当業務の調整によって解決できる場合もあります。採用コストや教育コストを考えると、頭ごなしに否定するのではなく、まずは「今、活躍できる環境」を社内で検討することが重要です。


在留資格(ビザ)との関係には厳重な注意が必要

外国人社員の配置転換を検討する際には、在留資格との関係に厳重な注意が必要です。 例えば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で採用した場合、従事する業務内容が在留資格の範囲内(一定以上の専門性や学術性が必要な実務)である必要があります。

日本語能力不足への対応として、「言葉の壁がない部署へ」と業務内容を変更した結果、在留資格の範囲外である「いわゆる単純労働(工場のライン作業、店舗のレジ打ち・品出し、清掃など)」に該当してしまうケースが散見されます。

これは出入国管理法違反となり、外国人本人の強制退去事由になるだけでなく、企業側も「不法就労助長罪」として刑事罰(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方)の対象となる恐れがあります。「良かれと思って異動させた」では済まされないため、配置転換を行う際には、在留資格上問題がないか事前に専門家へ確認することを強くおすすめします。


採用時にできる予防策

こうしたミスマッチを防ぐためには、採用段階での工夫と法的なリスクヘッジが重要です。具体的には以下のような方法が挙げられます。

  • 選考時の工夫
    • 面接時間を長めに確保し、履歴書の棒読みではないフリートークを実施する
    • 実際の業務(電話応対やクレーム対応など)を想定したロールプレイを取り入れる
    • 可能であれば数日間のインターンシップや職場見学を実施する
  • 契約・制度上の工夫
    • 「試用期間」を適切に設け、その期間中に実務レベルの適格性を見極める
    • 当初の契約を「有期労働契約(契約社員)」とし、日本語力や業務態度に問題がないことを確認した上で正社員へ登用する(※ただし、契約満了時の雇止めにも一定の法的ルールがあるため注意が必要です)

履歴書や日本語能力試験の結果だけでは分からない「生のコミュニケーション能力」を、選考プロセスの段階で確認しておくことが最大の予防策となります。


まとめ

外国人社員の日本語能力が想定より低かった場合でも、直ちに解雇を検討するのではなく、まずは原因を分析することが重要です。日本語能力そのものの問題なのか、業務内容とのミスマッチなのか、あるいは社内の教育体制の問題なのかによって対応方法は異なります。 また、安易な配置転換は在留資格の法的なリスク(不法就労助長罪など)を伴うため、慎重な判断が求められます。

当事務所では、外国人採用に関する労務トラブルのご相談や、配置転換時の在留資格確認、雇用契約書・社内規定の整備など、トータルでのコンサルティングを承っております。採用後の対応にお悩みの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や入管の運用変更等により内容が変更される場合がありますので、具体的な手続にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。