「技能実習から特定技能へ」は本当にスムーズ?

現場で増えている“移行時トラブル”とは

はじめに

「3年終わったら、そのまま特定技能ですよね?」

技能実習生を受け入れている企業様から、最近このようなご相談をよくいただきます。 それが、 「技能実習から特定技能への移行は、実際どこまでスムーズなのか?」 というものです。

制度上、技能実習2号を良好に修了した方は、必要な要件を満たせば、試験免除で「特定技能1号」へ移行できる仕組みがあります。そのため、「実習期間が終わっても、そのまま自社で継続雇用できる」と考えている企業様も少なくありません。

※なお、法改正により従来の技能実習制度は廃止され、特定技能への移行を前提とした「育成就労制度」への転換が進んでいますが、現行の実習生からの移行実務、および今後の新制度における運用の根幹において、今回解説するポイントは共通して極めて重要です。

しかし、実際の現場では、

  • 本人が転職を希望する
  • 給与などの雇用条件で折り合わない
  • 受け入れ側の支援体制が整っていない
  • 現場で任せたい業務区分が合わない

など、移行期にさまざまなトラブルやミスマッチが起きています。


技能実習と特定技能は「全くの別制度」

まず大前提として押さえておきたいのが、技能実習と特定技能は名前こそ似ていますが、制度の目的が根本から異なるという点です。

  • 技能実習: 国際貢献・途上国への技能移転を目的とした「研修・教育」の制度
  • 特定技能: 国内の深刻な人手不足分野における「就労(労働力の確保)」を目的とした制度

この目的の違いがあるため、特定技能へ移行すると、外国人本人側の意識も「実習生(学ばせてもらう立場)」から「労働者(対等な雇用契約を結ぶ立場)」へと大きく変化します。企業側も、これまでの「実習生の受け入れ」とはマインドを切り替える必要があります。


最近現場で増えている「3つの移行時トラブル」

① 「もっと条件の良い会社へ行きたい」

現在、非常に増えているのが移行期における「他社への転職」です。

特定技能になると、SNS等を通じて他社の給与、勤務地、寮の環境、人間関係などの情報を熱心に比較する外国人が多くなります。 企業側としては「3年間大切に育てたのだから、当然うちで残ってくれるだろう」と考えがちですが、特定技能制度では、入管法上の適切な変更手続き(在留資格変更許可など)を経ることを前提に、同一分野内での転職が法的に認められています。

「実習が終わる直前になって、初めて本人から『次は別の会社に行きます』と告げられた」というケースも少なくありません。

② 「特定技能なら何でも手伝わせられる」という誤解

特定技能は、分野ごとに従事できる「主たる業務」が厳格に定められています。

ここでよく問題になるのが、

  • 専ら倉庫業務ばかりをやらせている
  • 人手が足りない別部署の応援に常態化して入れている
  • 専門外の他職種を兼務させている

といったケースです。 日本人が通常行うような「付随的・日常的な関連業務(片付けや清掃、一時的な手伝いなど)」を本業の合間に行わせることは認められていますが、本来の分野外の業務を主業務として行わせた場合、入管法違反(在留資格外活動など)に該当するリスクがあります。現場の「忙しいから少し手伝って」が、知らぬ間に違法状態を招いてしまうことがあるため注意が必要です。

③ 支援体制の負担が想像以上に重かった

特定技能1号の外国人を受け入れる際、受入機関(企業)には法的な支援義務が課されます。

  • 入国前・生活を始めるための生活オリエンテーション
  • 役所や銀行、携帯電話の契約などの同行
  • 24時間体制での相談・苦情への対応
  • 定期的な面談と出入国在留管理庁への各種届出

これらは技能実習時代に監理団体が主導で行っていた業務も含まれるため、「特定技能になれば管理の手間が楽になる」と思い込んでいた企業様が、自社での運用や手続きの煩雑さに直面し、大きな負担を感じるケースがあります。


専門家として、最近強く感じること

実際にご相談をお受けする中で感じるのは、企業様が悩まれている本質は「制度の手続き」そのものよりも、「人材との関係性・エンゲージメントの構築」にあるという印象です。

現代は外国人ネットワークのコミュニティが非常に発達しており、

  • 他社の給与相場や福利厚生の情報をリアルタイムに持っている
  • SNSでより良い条件の求人情報が簡単に手に入る

という時代です。 そのため、「制度上、自社で受け入れられるか」という書類上のクリアだけでなく、「この会社で、このメンバーと一緒に働き続けたい」と本人に思ってもらえる環境づくりが、以前よりもはるかに重要になっています。これは外国人に限らず、日本人の採用・定着とも完全に共通するテーマと言えます。


企業側が今すぐ取り組むべき3つのアクション

1.「移行して当然」という前提を捨てる

技能実習の修了=自動的に自社で継続雇用できるわけではありません。実習が終わる半年前〜1年前など、早い段階から本人の今後のキャリア意向や、特定技能に移行した際の給与・待遇面について、本音で話し合う機会を設けましょう。

2.特定技能の「業務範囲」を事前に整理する

現場任せにしていると、意図せず分野外の業務をさせてしまうリスクがあります。移行後の外国人が「具体的にどの作業を行い、どの作業はやってはいけないのか」を、現場の責任者も含めて事前にガイドライン化し、定期的に社内で確認することが重要です。

3.外国人向けの「支援体制」を軽視しない

私生活の安定や社内の相談体制、日本語学習への理解などは、本人のモチベーションと定着率に直結します。自社だけでこれらすべての法定義務を適切に履行し、細やかなケアを行うのが難しい場合は、専門機関への支援委託を視野に入れるのが現実的です。

まとめ:制度の枠組みを超え「選ばれる企業」になる時代へ

技能実習から特定技能への移行は、今後も外国人雇用の主要なルートであり続けます。
しかし、その成功を左右するのは、入管手続きが通るかという「許可」の視点だけではありません。移行後に「いかに安心して、長く安定して力を発揮してもらえるか」という、受け入れ側の体制と関係づくりこそが、これからの企業経営における重要なテーマです。


特定技能・技能実習のご相談について

当事務所では、登録支援機関として以下のサポートを行っております。

  • 技能実習から特定技能への在留資格移行支援
  • 出入国在留管理庁への各種申請・届出書類の作成
  • 関係法令を遵守した特定技能受入体制の整備
  • 義務的支援計画の作成および適切な実施代行
  • 現場の業務範囲チェックおよびコンプライアンス診断

「制度の概要はわかったけれど、自社の現場で正しく運用できるか不安」「優秀な人材にそのまま残ってもらうための条件設定や対話の方法を知りたい」という企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。外国人雇用の“とりあえずの維持”ではなく、“長く安定して強固な組織を作るための体制”へ、私たちが伴走いたします。