外国人社員が退職したら必要?「所属機関に関する届出」を忘れる企業が増えています
はじめに
「退職しただけだから、特に手続きは不要ですよね?」
外国人雇用を行う企業様から、最近よくいただくご相談です。
実際、日本人社員が退職した場合と同じ感覚で、
- 離職票の発行
- 社会保険の喪失手続き
- 雇用保険の手続き
だけで終わっているケースは少なくありません。
しかし、外国人社員の場合、在留資格(ビザ)によっては、出入国在留管理庁(入管)への「所属機関に関する届出」が必要になることがあります。
しかもこの届出、実務上かなり見落とされやすいにもかかわらず、
- 次回の在留期間更新
- 転職後の入管審査
- 将来の永住申請
- 高度専門職への申請
などで、外国人本人の審査に大きなマイナス影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
今回は、企業担当者の方が見落としやすい「所属機関に関する届出」について、実務目線で分かりやすく解説します。
「所属機関に関する届出」とは?
外国人が日本で中長期にわたって在留する場合、
- 勤務先が変わった(転職した)
- 退職した
- 新しい会社に入社した
といった事由が生じた際に、出入国在留管理庁への届出が必要になります。
特に「技術・人文知識・国際業務(いわゆる技人国ビザ)」では、“どの機関(会社)と契約しているか”が在留を認められる重要な審査要素になるためです。
実は「外国人本人」と「企業側」で義務が違う
ここは、多くの解説サイトで曖昧に書かれており、実務で最も混同されがちなポイントです。 結論から言うと、「外国人本人」と「企業(受入れ機関)」とでは、届出の義務やルールが全く異なります。
① 外国人本人が行う届出(「技人国」などは完全義務)
「技術・人文知識・国際業務(技人国)」や「企業内転勤」などの就労ビザを持つ外国人本人は、会社を退職したり、転職したりした場合、原則として14日以内に入管へ届け出る義務があります。
よくある誤解として、外国人本人から「次の会社が決まってからまとめて入管に出せばいいですよね?」と聞かれることがありますが、これは間違いです。「退職時」と「新会社への入社時」のそれぞれで届出が必要になります。
② 企業側が行う届出(ハローワークは必須、入管はビザによる)
一方で、企業側にも届出の制度があります。
まず、外国人が入社・退職した際、企業はハローワークへの「外国人雇用状況届出」が法律で一律に義務付けられています(これは会社の規模や雇用形態を問いません)。
では、入管への届出はどうでしょうか? 実は、「技人国」ビザの社員が退職した場合、企業側が入管へ行う手続きはありません。(ハローワークへの届出のみで完了します)。企業側にも入管への届出義務があるのは、「特定技能」「技能実習」「留学生(アルバイト)」などの資格で外国人を受け入れている場合に限られます。
実務ではここが誤解されがちで、
- 技人国なのに、企業側が入管へも二重に書類を出そうとして混乱している会社
- 逆に、「本人に入管への届出義務がある」ことを知らず、退職する外国人にアナウンスを忘れている会社
の両方が多く見受けられます。
実務で本当に多い「危険な3つのパターン」
ケース①:退職後、本人が入管への届出を忘れている
「技人国ビザで勤務 ⇒ 会社を退職 ⇒ 転職活動を開始」というケースで、本人が14日以内の届出を忘れているパターンです。 特に、転職エージェントに手続きを任せっきりにしていたり、SNSの間違った情報を鵜呑みにしていたり、「会社がやってくれていると思っていた」という言い訳は非常に多く耳にします。
ケース②:会社側も「ハローワークに出したから終わり」と放置
企業側としては「ハローワークへの義務(外国人雇用状況届出)は果たした」から適法だと思いがちです。しかし前述の通り、外国人本人には入管への届出義務があります。
退職手続き(チェックリスト)の際に、会社側から「入管への届出は忘れないようにね」と一声かけたり、退職ガイダンスの書面に一筆入れておいたりする配慮がないと、本人が悪気なく未提出のまま放置してしまう原因になります。
ケース③:更新時に“職歴の空白”を説明できない
これが最も実務上トラブルになるポイントです。 次回のビザ更新申請や転職時の審査の際、入管は「いつ前の会社を退職し、いつ次の会社に入社したか」「その間の空白期間は何をしていたか」を厳しくチェックします。
このとき、本人からの届出が漏れていると、入管側から「適正な在留状況にない」とみなされ、慎重な事実確認(追加資料の提出要求)が行われます。最悪の場合、次回の在留期間が縮小されたり、不許可リスクが高まったりします。
「届出しなかったらどうなる?」正しいリスクの理解
「届出をしなかったからといって、即座に在留資格が取り消されるわけではない」というのは事実です。
しかし、入管法上、正当な理由なく届出を怠った場合は「20万円以下の罰金(刑事罰)」の対象となることが明記されています。また、この届出義務を怠っていたという事実は入管のデータにしっかり残るため、将来の「ビザ更新」「永住申請」「帰化申請」「高度専門職への変更」の審査において、致命的なマイナス評価につながるリスクがあります。
「後でまとめて説明すればいいや」ではなく、適切なタイミングで本人が手続きを完了しているか、会社としても確認しておくことが重要です。
最近増えている「グレーケース」の落とし穴
最近は働き方の多様化により、企業の実務現場でも以下のような「届出が必要なのか?」の判断が難しいグレーなケースが増えています。
- 在籍出向(籍は自社にあるが、他社で就労する場合)
- グループ会社内での異動(法人格が変わる場合)
- リモートワーク勤務への移行(勤務場所のみが変わる場合)
- 正社員から業務委託契約への切り替え
これらは、「雇用主は同じだから不要だろう」「同じグループ内だから大丈夫」と自己判断してしまうと、後から入管法違反を指摘されるリスクがあります。実務上は、個別の契約内容や在留資格の要件に照らし合わせた慎重な判断が必要です。
企業側が今すぐやるべき3つのこと
① 外国人社員の在留資格(ビザ)の正確な把握
「技人国」「特定技能」「高度専門職」「企業内転勤」など、在留資格ごとに会社・本人が行うべきルールが違うことを正しく理解・整理しましょう。
② 退職時フローに「入管手続きの確認」を組み込む
PCの返却、社保の喪失、退職届の回収まではどの企業でも整備されていますが、「入管関連の確認」が抜けています。退職時のチェックリストに1項目加えるだけで、将来のトラブルを未然に防げます
③ 転職・退職予定者への事前アナウンス
特に技人国では、次の会社での仕事内容が「本人の学歴や職歴と関連しているか」が極めて重要です。「とりあえず退職してから考えよう」という行き当たりばったりの行動は、将来の更新トラブルを招きます。退職時に正しい入管手続き(14日以内の届出)を促すことは、企業の社会的責任(コンプライアンス)の一環でもあります。
まとめ:外国人雇用は「採用後の管理」まで含めて考える時代へ
これからの外国人雇用では、採用時だけでなく「在職中」「退職時」「転職時」それぞれに特有の実務対応が求められます。
特に今回ご紹介した「所属機関に関する届出」は、外国人本人、企業、ハローワーク、入管の4者の関係性が分かりづらく、最も見落とされやすい分野の一つです。しかし、この「退職後の処理」の成否が、外国人社員のその後の日本でのキャリアや、企業の雇用コンプライアンスに直結します。
外国人雇用が一般化している今、“採用して終わり”ではなく、「退職や異動に伴う在留資格管理まで含めて、適切に運用できる体制を持った会社」が、今後ますます優秀な外国人に選ばれる時代になっていくでしょう。
当事務所では、企業様の実務に即した以下のサポートを行っております。
- 技人国ビザ等の適法性・職務内容の確認
- 外国人社員の退職・転職・異動に伴う実務対応アドバイス
- ビザ更新前の事前リーガルチェック
- 社内における外国人雇用管理フローの構築・整備
- 採用前の在留資格(ビザ)該当性診断
特に、「この出向ケースは入管への届出が必要なのか?」「グループ内異動でビザ変更は必要なのか?」といった、ネットの検索だけでは解決できないグレーゾーンのご相談が実務上非常に増えています。
外国人雇用を“なんとなくの運用”から、“安心して継続できる確実な体制”へ変えていきたい企業様は、どうぞお気軽にご相談ください。


