外国人社員が「取締役」になったら、全員が「経営・管理」ビザに変えなきゃダメ?

― 実務でよくある誤解と盲点 ―

はじめに

外国人社員を雇用している企業の経営者や人事担当者の方から、最近このようなご相談をよくいただきます。

「現場で頭角を現してきた優秀な外国人スタッフを取締役に抜擢したい。やっぱりビザも『経営・管理』に変えないといけないのかな?」

実はこのテーマ、実務において非常に誤解が多いポイントです。結論からお伝えすると、「取締役に就任した=100%経営・管理ビザに変更しなければならない」というわけではありません。

入管が審査で見ているのは、会社の登記簿に載る「肩書き」ではなく、その人が明日からデスクや現場で「実際に何をするのか(活動の実態)」だからです。

今回は、外国人社員が役員に就任する際、企業が絶対に知っておくべき在留資格のルールと、実務上の注意点を分かりやすく解説します。


入管がチェックするのは「肩書き」ではなく「時間と中身」

例えば、これまで「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」のビザで働いてきた外国人エンジニアが、その実績を買われて取締役に就任したとします。

役員にはなったものの、明日からの主な仕事も変わらずシステムの設計や開発であり、一日の大半(時間的・実質的な大部分)をこうした現場業務に費やしている場合

このケースでは、ビザをわざわざ「経営・管理」に変える必要はありません。実態として現在の「技人国」の範囲内の活動を「専ら(もっぱら)行っている」と評価されるため、今のビザのままで適法に役員を兼任することができます。

中身が「現場のリーダー(プレイングマネージャー)」であるなら、慌ててビザの変更申請に走る必要はないのです。


逆に「経営・管理」への変更がマストになるケースとは?

一方で、現場を完全に離れて「会社全体の舵取り」に回る場合は話が変わります。 具体的には、以下のような業務がその人のメインの仕事になるケースです。

  • 会社の経営方針や事業計画を自ら策定・決定する
  • 銀行との融資交渉や、資金調達・予算管理を行う
  • 人事権を握り、社員の採用や解雇の最終決定を下す

このように実質的な経営陣として「会社全般の統括」を行う場合は、「技人国」のままでは資格外活動になってしまいます。速やかに「経営・管理」ビザへの変更申請を検討しなければなりません。


実務で引っかかりやすい「役員報酬」の壁

経営・管理ビザへの変更、あるいはその後の更新審査では、「いくら報酬をもらっているか」が入管から厳しく見られます。経営判断を下す立場である以上、本人が独立して日本で暮らしていける十分な役員報酬(実務上の目安として月額20万円以上、かつ日本人役員と同等以上)が設定されていることが必須要件となります。


【重要】ビザを変えない場合でも「14日以内」の罠がある

「うちは現場業務がメインだから、今の『技人国』ビザのままでいこう」 そう判断した企業が、一番うっかり落とし穴にはまりやすいのが「入管への届出」です。

ビザの変更手続きが不要であっても、登記簿上の役員になった以上、本人は「役員就任から14日以内」に入管へ『所属機関に関する届出』を提出する義務があります。

これをつい忘れてしまい、数年後のビザ更新のタイミングで入管から「なんで届出を出してないんですか?」と突っ込まれ、審査がストップしたりマイナス評価を受けたりするトラブルが後を絶ちません。肩書きが変わったら、まずは2週間以内に入管に書類を出す。これだけは忘れないでください。


近年増えている「執行役員」や「会社設立」との違い

ここでよく混同されがちな、周辺のケースについても整理しておきます。

① 「執行役員」になった場合

執行役員は会社法上の「役員(取締役や監査役)」ではなく、あくまで従業員の延長線という位置づけです。そのため、執行役員になったという事実だけでビザが変わることはまずありません。ここでも「実際の現場業務の中身」で判断します。

② 「自分で会社を立ち上げる」場合との違い

ネットでよく見る「資本金3,000万円が必要」という情報は、外国人がゼロから自分で会社を作って社長になるケースの話です。今回のように、既存の日本の会社に「雇われて役員になる」ケースとは審査の着眼点が異なりますのでご注意ください。


企業の人事担当者が、事前にチェックすべき5つのリスト

外国人社員の役員就任が決まったら、まずは社内で以下の5つのポイントをセルフチェックしてみてください。

  • 実際の業務内容は何か(現場の仕事が大部分か、経営判断がメインか)
  • 「技人国」のままいく場合、就任後14日以内に入管へ届出を出す段取りはあるか
  • 「経営・管理」へ変更する場合、十分な「役員報酬(目安:月額20万円〜)」を設定しているか
  • 更新時に入管から求められる「職務内容説明書」などを理路整然と準備できるか
  • 【最重要】会社側で、社会保険や労働保険、税金の未納・滞納はないか


⚠️ 知っておきたい、近年の入管の「厳格化」

特に最後の「会社の公租公課(税金や社会保険など)」のチェックは極めて重要です。2025年10月の入管法改正により、「経営・管理」ビザの審査において、会社側が社会保険や税金を適正に納めていない場合、それだけでビザが不許可になる運用へと大きく舵が切られました。社内の労務管理の不備のせいでビザが降りない、という悲劇を防ぐためにも事前の確認が必須です。


まとめ:思い込みで進めるのが一番危険

外国人社員の取締役就任は、会社にとっては喜ばしい成長の証です。しかし、実務上は「役員になったから絶対に変更だ!」という思い込みも、「現場のままだから何も手続きしなくていいや」という放置も、どちらも足元をすくわれる原因になります。

次回のビザ更新時に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、役員の登記手続きを進める前に、一度在留資格との整合性をプロの目で確認しておくことを強くお勧めします。

当事務所では、外国人役員の就任に伴うコンサルティングから、経営・管理ビザへの変更、各種書面の作成まで、最新の入管トレンドを踏まえたサポートを行っております。「うちのケースはどっちだろう?」と少しでも迷われたら、ぜひお気軽にご相談ください。

※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。特に近年の入管法改正や運用の変更はスピードが早いため、具体的なお手続きにあたっては、必ず最新の情報をご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。