フリーランス・個人事業主として日本で働きたい外国人が選べるビザとは?
〜「フリーランスビザ」は存在しない。でも、道はある。令和7年10月改正を踏まえ、行政書士が選択肢を徹底解説〜
はじめに
近年、ITエンジニア、Webデザイナー、翻訳者、マーケター、コンサルタントといった専門分野を中心に、特定の会社に所属せず、フリーランスや個人事業主として独立する方が増えています。日本のビジネスシーンでも、業務委託という働き方は完全に定着した感があります。
当事務所にも、外国人の方から「会社員を辞めて、個人事業主として自分の腕一本で仕事をしていきたい」「日本でフリーランスとして活動することはできますか?」というご相談をいただく機会が目に見えて急増しています。
しかし、ここで非常に高いハードルとなるのが「在留資格(ビザ)」の壁です。
日本の在留資格制度は、その多くが「日本の会社に雇われて働くこと(会社員)」を大前提として設計されています。そのため、日本人と同じような感覚で「明日からフリーランスになります」と安易に動いてしまうと、在留資格を失う致命的なリスクを伴います。
今回は、外国人が日本でフリーランスや個人事業主として活動する場合の現実的な選択肢と、手続きを進める上で絶対に知っておかなければならない最新の審査基準を、行政書士の視点から徹底的に解説します。
まず知っておきたいこと:「フリーランスビザ」は存在しない
まず、最も誤解されやすい大前提からお伝えします。現在の日本の入管法において、「フリーランスビザ」や「個人事業主ビザ」という名称の在留資格は存在しません。
つまり、「フリーランスになりたい」という希望や職種だけで一発取得できるような都合の良いビザはない、ということです。
実際の実務では、「フリーランスになりたいからビザを探す」のではなく、あなたが行う具体的な業務内容、クライアント(取引先)との契約形態、見込める収入、さらには事業の規模感などを総合的に見極めながら、既存の在留資格の中からどれに当てはめていくかを戦略的に検討していくことになります。ここを勘違いしたままスタートしてしまうと、すべての計画が頓挫しかねません。
「技術・人文知識・国際業務」のままフリーランスは可能か?
実務上、最も多く相談をいただくのがこのケースです。現在「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」のビザで会社員として働いている外国人の方が、会社を辞めて個人で案件を受けたいという場合です。
結論からお伝えすると、この在留資格のままでフリーランス(個人事業主)として活動することは、制度上は可能です。 入管法において、技人国ビザの要件は必ずしも「雇用契約」に限定されておらず、企業との「業務委託契約」や「委任契約」であっても認められているからです。
ただし、ここからが実務の厳しい現実です。会社員の場合に比べて、入管の審査は格段に厳しくなります。
単発のクラウドソーシングや、いつ途切れるか分からない不定期なギグワーク(単発のアルバイトのような働き方)では、次回のビザ更新はまず通りません。審査をクリアするためには、以下の実態を客観的な契約書などの書類で証明する必要があります。
- 日本国内に、継続的な契約先(主たる所属機関)となる企業がしっかり存在すること
- そこから継続的・安定的に、日本人と同等以上の報酬(生活を維持できる十分な収入)が得られる契約内容であること
つまり、複数社と業務委託契約を結ぶにしても、「核となる太い契約」が維持できているかどうかが運命の分かれ目となります。行き当たりばったりで独立するのではなく、退職前の段階から「ビザを維持できる契約書を交わしてくれるメインクライアント」を確保しておく高度な事前設計が不可欠です。勢いで会社を辞めないことが鉄則です。
「経営・管理」ビザの基準激変:法人でも個人でも「3,000万円」の壁
「会社員時代の技人国ビザの枠にとらわれず、完全に独立して自分の事業をやりたい」という場合、真っ先に思い浮かぶのが「経営・管理」ビザへの変更です。
しかし、ここで非常に重要な注意点があります。かつての入管実務でよく言われていた「法人を設立して資本金を500万円用意すれば取得できる」という基準は、令和7年(2025年)10月16日施行の省令改正により完全に過去のものとなっています。
現在の最新基準では、法人・個人事業主を問わず、一人のフリーランスが独立する枠組みとしては極めて厳しい要件(通称:新5大要件)が課されるようになりました。
📌 経営・管理ビザの新5大要件
- 事業への投下財産が3,000万円以上であること
- 常勤職員1名以上の雇用義務(日本人や永住者など、身分系資格保持者に限る。技人国などの就労ビザの外国人は対象外)
- 申請者または常勤職員の日本語能力(JLPT N2・B2相当以上の証明が必要)
- 経営・管理の実務経験3年以上、または修士・博士・専門職学位(MBA等)のいずれかを保有していること
- 中小企業診断士、公認会計士、税理士のいずれかの専門家による事業計画書の事前確認を受けていること
特に注意すべきは「3,000万円」の要件です。これは法人か個人事業主かによって、以下のように算定方法が大きく異なります。
3,000万円の算定方法の比較
| 区分 | 3,000万円の算定方法 |
| 法人を新設する場合 | 「払込済資本金の額」のみで判断されます。職員の給与やその他の経費は一切合算できず、スタート時に一括で3,000万円を調達する必要があります。 |
| 個人事業主の場合 | 事業所、職員給与(1年分)、設備投資経費などの「投下総額」で判断されます。 |
WEB上では今でも「法人化した方がビザの見通しが立ちやすい」という古い情報が残っていますが、現在の現行法下では必ずしもそうとは言えません。一括で3,000万円の資本金を用意するのが難しい場合、個人事業主として実質的な投資総額を積み上げていく方が、結果として現実的な選択肢になるケースもあります。
また、もう一つ重要な実務ポイントとして、入管庁は「業務委託を行うなどして経営者としての活動実態が十分に認められない場合は、経営・管理に該当しない」と明記しています。つまり、自身が手を動かして業務委託をこなすだけの「フリーランス的な働き方」のままでは、経営・管理ビザとして認定されないリスクが非常に高いため、ビジネスモデルの設計そのものをプロと練り上げる必要があります。
盲点:「自宅兼オフィス」は原則認められない
もう一つ、フリーランス志望の外国人の方にとって極めて致命的な改正ポイントがあります。
それが、「自宅を事業所(オフィス)と兼ねることは、原則として認められない」という要件です。
日本人であれば「最初は自宅のリビングを登記住所にしてフリーランスを始めよう」というのはよくある話ですが、外国人が経営・管理ビザを取得・維持する場合、この手法は原則として通用しません。
住居とは完全に区別された「独立した事業用スペース(専用のオフィスや店舗など)」を国内に確保していることが厳格に求められます。自宅の一部を強引にオフィスと言い張っても、現在の審査ではまず通りません。物件の賃貸契約や維持費も含め、開業コストが従来よりも大幅に跳ね上がっている点に注意してください。
身分系ビザ(配偶者・永住者等)の方は制限なし
一方で、就労制限のない以下の在留資格をお持ちの方であれば、これまで解説した厳しい要件は一切関係ありません。
- 日本人の配偶者等
- 永住者
- 永住者の配偶者等
- 定住者
これらのいわゆる「身分系のビザ」を持っている方は、日本国内での活動に一切の制限がありません。3,000万円の資金要件も、常勤職員の雇用義務も、オフィスの確保義務も無関係に、完全なフリーランスとして複数のクライアントと自由に動くことができます。入管の手続きを気にすることなく、ビジネスの成長だけに100%専念していただける、最も有利な立場と言えます。
高度専門職の方の注意点と開業届の誤解
① 高度専門職の方は活動範囲に注意
「高度専門職」のビザをお持ちの方からも独立や副業のご相談を受けますが、このビザは「許可された特定の所属機関(会社)での活動」を前提として優遇措置が与えられているものです。
会社を辞めてフリーランスになる、あるいは現在の所属先とは関係のない形で独立する場合、そのままのビザを維持することはできません。高度専門職の優遇を一度手放して「経営・管理」や「技人国」へ変更する必要があるため、慎重なシミュレーションが必要です。
② 「開業届を出せば大丈夫」というネットの誤解
インターネットの記事やSNSを見ていると、「外国人も税務署に開業届を出しさえすれば、個人事業主として活動して問題ない」というような乱暴な情報を見かけることがあります。 確かに、税務署は国籍に関係なく開業届を受理してくれますし、税務上の手続きを進めることは義務です。しかし、「税務署が書類を受け取ったこと」と、「入管法上でその活動が認められるか」は、完全に別問題です。 どれだけ立派な開業届や確定申告書があっても、現在のビザの活動範囲を超えていれば「資格外活動」や「不法就労」とみなされ、最悪の場合は強制送還や、次回の更新・永住申請の拒否という重いペナルティを受けることになります。手続きの順番を絶対に履き違えないでください。
退職時の必須手続き:「14日以内」の義務
無事にフリーランスとしての契約の目処が立ち、会社を退職した際には、絶対に忘れてはならない手続きがあります。
退職した日から「14日以内」に出入国在留管理庁へ「所属機関に関する届出(契約機関の離脱)」を提出する法律上の義務です。
これを知らずに放置してしまう外国人の方が非常に多いのですが、提出を怠ると、将来「永住申請」をしたいと思ったときに一発で不許可になるなど、後々大きな足かせになります。「知らなかった」「忘れていた」では済まされないのが入管の世界です。
まとめ
日本で外国人がフリーランスとして生きていくことは決して不可能ではありませんが、ビザの壁がある以上、日本人よりも何倍も綿密な準備と、最新の法知識が不可欠になります。
- 現在自分が持っているビザの正確なステータス
- これから行う業務の具体的な内容と、オフィス確保の現実性
- クライアント企業と交わす契約書の中身(期間や報酬額)
- 3,000万円要件や新5大要件への適切な対応
これらを総合的に判断し、「退職届を出す前の段階」で次のビザの戦略を確定させることが成功のための絶対条件です。
当事務所では、在留資格の変更申請はもちろん、フリーランスとしての契約設計のリーガルチェック、さらには激変した「経営・管理」ビザを見据えた外国人の起業・スタートアップサポートまで、実務に即したトータルなご提案を行っております。「自分の場合はどのルートがベストなのか」と迷われた方は、傷口が深くなる前に、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
※本記事は令和7年(2025年)10月16日施行の省令改正を含む、掲載日時点の法令・制度および入管の審査運用に基づいて作成しています。外国人の在留資格に関する運用は、時期や情勢によって予告なく急激に変化することがあります。具体的な案件の進め方については、必ず最新の公表情報を確認するか、当事務所まで直接お問い合わせください。


